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高松高等裁判所 昭和50年(行コ)8号 判決

控訴人 萩原シズ子

被控訴人 池田労働基準監督署長

訴訟代理人 山浦征雄 曽川収 ほか四名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和四七年四月三日付で控訴人に対してなした労働者災害補償保険法によ石障害補償給付の支給についての処分を取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理入は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする」との判決を求めた。

第二当事者間に争いのない事実

一  控訴人は、徳島県三好郡東祖谷山村が徳島営林署からの請負事業として行つた昭和四五年度の同村国有林造林事業に造林婦として就労していたものであるが、昭和四五年一〇月一四日午前九時ごろ、同村字菅生所在の通称カラ谷国有林において雑木を伐採中、伐採木がはね上がり控訴人の顔面を強打したため、右眼瞼部に受傷した。受傷時には、打撲部が腫れ内出血を起こしている程度で、視力に変りなく痛みもなかつたため、控訴人は引続き作業に従事し、その後も同月二二日まで就労していたが、次第に右眼瞼部の腫脹が著るしくなり、目がかすんで物が見づらくなつてきた。

二  そこで、控訴人は、同月二三日から同年一二月二九日まで三好郡池田町浜眼科医院(浜医院という)に入院し浜博医師の診察治療を受け、昭和四六年一月八日大阪大学医学部附属病院(阪大病院という)において診察を受け、さらに、昭和四六年三月三〇日から同年一二月三一日までの間、徳島大学医学部附属病院(徳大病院という)に月二回程度通院して治療を受けた。徳大病院の担当医師塩田洋は、昭和四七年二月一四日、控訴人の求めにより、「治療年月日は昭和四六年一二月三一日。機能障害の状況程度については、視力低下(両眼〇・一、矯正〇・二)及び視野狭さく(五度ないし一〇度)の障害があり、それぞれ労働者災害補償保険法(労災保険法という)施行規則(施行規則という)別表障害等級表第九級第一号及び第三号(障害等級何級という)に該当する。障害を残した医学的根拠については、びまん性脳性萎縮症によるものと思われる。」とする診断書を発行した。

三  控訴人は、昭和四七年二月、被控訴人に対し、右診断書を証明資料として添付して障害補償給付請求をしたので、被控訴人は、同年四月三日、控訴人の傷害の症状が昭和四六年一二月三一日に固定したものと認め、控訴人の残存障害は障害等級第九級に該当するものと認定し、同等級相当額の障害補償金を支給する旨の処分(以下本件処分という)をした。

四  控訴人は被控訴人の本件処分を不服として昭和四七年六月一二日徳島労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をしたが、審査官橋本総介は同年九月三〇日これを棄却した。そこで控訴人はさらに右決定を不服として同年一〇月二五日労働保険審査会に対し再審査請求をしたが、同審査会は昭和四八年五月三一日これを棄却する旨裁決し、その裁決書はその頃控訴人に送達された。

第三争点

(控訴人の主張)

一(一)  挫訴人の負傷は症状が未だ固定していないのに、療養補償給付と休業補償給付の支給を打切り、障害補償給付を支給することにした被控訴人の本件処分は違法である。すなわち、徳大病院において、控訴人の診察を担当した同病院医師塩田洋は、浜医院や阪大病院での診断結果に比べ、視力が〇・一にまで低下し、視野も五度ないし一〇度と極度に狭くなつていることから、右控訴人の視力減退及び視野狭さくが、顔面打撲による頭部びまん性脳性萎縮症によるものではないかとの疑いを深め、右のような症状の原因を究明し、治療を続けるためには単なる視力及び眼底の検査等の処方では足りず、さらに視神経ならびに脳内の精密検査を行い、継続的治療を受ける必要がある旨くり返し強調し、控訴人としても同医師のすすめに従い、脳室撮影等の精密検査を受けるつもりで通院し、右検査のためには保証人が必要とのことであつたので、保証人を依頼できる人を探していた矢先、被控訴人は、昭和四六年一二月三一日をもつて、突如として控訴人に対し、本件打切り処分をなしたもので、控訴人は、当時、右検査を受けることを拒否していたわけではなく、被控訴人の本件処分のため、やむなく以後治療を受けることを断念したものである。

(二)  なお、控訴人は、前記のとおり昭和四七年二月、被控訴人に対し障害補償請求をしたのであるが、これは控訴人が他の書類を提出する際に誤つて障害補償給付請求書を提出してしまつたものであり、そうでないとしても、控訴人が相当の年令であるうえ症状がかなり深刻であり、治療には専門家による十分な検査と相当の年月費用を要し、かなり手数がかかるとみるや、被控訴人は、担当医師に対し再三にわたり打ち切りの催告をして診療に不当介入し、控訴人をしてやむなく打ち切り申請に及ばしめたものであつて、控訴人の障害補償給付請求はその真意に出たものではないから、本件処分は適法な手続を経たものとはいえない。したがつて、この点からも本件処分は取り消されるべきである。

二  仮りに一の(一)(二)記載の主張が認められないとしても、控訴人の残存障害の程度は、障害等級第七級以上に該当するもので、これを障害等級第九級に該当するとした被控訴人の本件処分は違法である。すなわち、

(一) 徳大病院における担当医の塩田医師は、控訴人の主訴、診療の経過を綜合して、びまん性脳性萎縮症またはその疑いとの診断を下し、また、同病院の布川医師も両視神経萎縮症との診断を下しており、控訴人にはその脳内に異変が起り、視神経が萎縮したことにもとづく障害が残つたものであり、右障害は典型的な神経障害の一種であつて、そのため控訴人は、視力障害、視野障害という眼球の機能的障害のみにとどまらず、神経障害からくる激しい頭痛、耳鳴り等の諸症状に悩まされ続け、これまでのような力仕事は無論のこと軽度の作業にも従事できず、現在も家事労働すら満足にできない状態であるから、控訴人の残存障害は障害等級第五級第一の二号あるいは少くとも第七級第三号に該当するものといわなければならない。なお、控訴人の視力障害については、塩田医師は、本件処分に最も近接した昭和四六年一二月二日に行つた視力検査の結果、控訴人の視力は両眼とも裸眼、矯正視力がいずれも〇・一と診察しているのであるから、本件処分時の控訴人の視力障害は、それ以前の同年七月一七日の検査結果である両眼とも矯正視力が〇・二の測定値によるべきではなく、前記同年一二月二日の検査結果である両眼とも矯正視力〇・一の測定値によるべきである。

(二) また、眼球の機能的障害としての視力低下と視野狭さくとは本来それぞれが別々の意味をもつものである。つまり視力低下のみが障害としてあらわれ、視野については正常な場合があり、またその逆の場合もあり得るのであつて、眼球の機能的障害は必ずしも複数の障害が同時に残るとは限らない。被控訴人も認めているように網膜の中心部分の障害により、視力障害はあつても視野障害その他の機能的障害は生じない症例も現実に存在しているのである。したがつて眼球の機能的障害としての視力障害と視野障害はたとえ同一の部位における障害であるとしても、いわゆる障害の系列上は同一系列にはあたらず、複数の障害として取扱うべきである。そして、右の身体障害を現実の労働能力の喪失という観点から評価した場合単なる視力障害のみが残つた場合と視力障害及び視野障害が同時に残つた場合とでは眼球の正常な機能からすれば後者が前者の二分の一に低下したものと評価されるのであるから、視力障害と視野障害が同時に残つた本件の如き場合は、施行規則一四条三項により併合繰り上げの方法を用いて障害等級を認定すべきであつて、その一方の障害のみの補償で足りるとの処理の仕方は平等の精神に反し、被災労働者にとつてまことに酷な結果を招くものといわなければならない。

三  よつて、控訴人は、被控訴人が昭和四七年四月三日付で、控訴人に対してなした障害補償給付についての本件処分の取消を求める。

(被控訴人の主張)

一(一)控訴人の受けた診断ないし治療の経過は次のとおりである。

(1) 控訴人は、昭和四五年一〇月二三日から同年一二月二九日迄浜医院に入院していたのであるが、同医院の浜博医師は、控訴人を「右眼瞼蜂巣炎及び右眼外傷性視神経炎」と診断し、治療にあたつた結果、各罹患部位とも順次正常に回復し、視力が両眼とも〇・八(矯正不能)との測定位を得るに至つたので、同年一二月二九日治癒したものと判断し、同日、控訴人を退院させた。しかし、この間控訴人は浜医師のこのような診断所見にもかかわらず依然として視力の悪化を訴え続けたため、同医師は万一の誤診をおそれ、控訴人を阪大病院に転医させた。

(2) 控訴人は、昭和四六年一月八日、阪大病院において診察を受けたのであるが、同病院の塚本医師は、控訴人を「遠視性乱視(視力、右眼裸眼〇・五、矯正一・〇、左眼裸眼〇・四、矯正〇・八)」と診断し、これ以外には両眼部、眼底とも異常を認めないとして同日をもつて治癒した旨診断した。

(3) ところが、控訴人は、昭和四六年三月三〇日、さらに徳大病院で診察を受け、同年一二月三一日迄通院して治療を受けたが同病院塩田医師は前記診断書のとおり控訴人を診断した。

そこで、被控訴人は、前記のとおり徳大病院等で控訴人の治療にあたつた医師の診断をもとにして、控訴人が昭和四六年一二月三一日をもつて治癒したものと認め、療養補償給付及び休業補償給付を打ち切ることとし、昭和四七年四月三日、障害補償一時金を支給する旨の本件処分をなしたものである。ところで、治癒とは、症状が安定して、負傷、疾病等が固定している状態、すなわち、急性症状が消退して慢性症状が持続していているけれども、これ以上治療しても最早や医療効果を期待することができず、また、治療行為を行わなくてもそれ以上症状が悪化することはない状態をいうとされている。そして、控訴人は、昭和五〇年六月、徳大病院において徳島大学医学部教授三井幸彦らの診察を受けたところ、同教授らは、控訴人が全盲に近いと訴えている症状は全く信用できないもので、詐盲の疑いが多分にあると診断した。そうすると、控訴人の右診断時の症状は昭和四六年一二月一三日治癒したと認定された際の症状と全く同一の状態にあると認められ、当時から控訴人の症状は固定していたものといわなければならない。

控訴人は、昭和四六年一二月三一日当時控訴人には、びまん性脳性萎縮症の疑いがあり、なお継続治療の必要があつた旨主張する。しかし、びまん性脳性萎縮症の特長は、それまでの正常な視力が一年程度のうちに急速に減退をきたし、極度の視力低下を惹起してくるところにある(〈証拠省略〉参照)。ところが、控訴人は昭和四六年七月一日以降同年一二月三一日迄控訴人の視力障害、視野狭さくは平行状態であつたもので、びまん性脳性萎縮症にみられる症状とは明らかに異なつているから、控訴人にはびまん性脳性萎縮症またはその疑いがあるものとはとうてい考えられない。

(二)  控訴人は、その真意に基づかないで本件障害補償給付の請求をなした旨主張するけれども、前記のとおりの診断ないし治療の経緯に照らし控訴人がその真意に基づいて本件障害補償給付の請求をしたものであることは明らかである。

二  被控訴人は、前記症状の固定した昭和四六年一二月三一日当時の控訴人の後遺障害は、前記塩田医師の判断のとおり、(1)両眼とも視力は〇・二で、障害等級第九級第一号に定める「両眼の視力が〇・六以下になつたもの」に該当し、(2)両眼の視野は五度ないし一〇度と狭さくされて通常人の視野の六〇%以下に減じており、同第九級第三号にそれぞれ該当するものと判定した。

ところで、労働基準法七七条は、労働者の業務上の負傷、疾病に基づく身体の残存障害に対し使用者は右障害の程度に応じて障害補償を行なわなければならない旨規定し、同法施行規則四〇条はこれをうけて身体障害の程度を等級をもつて示すこととし、且つ、労災保険法一五条は、障害補償給付は労働省令で定める障害等級に応じてこれをなすべき旨規定し、施行規則一四条一項は障害等級は同規則別表障害等級表の定めるところによるとしている。そして、身体障害が併存する場合の等級決定は、原則として同条二項により重い方の身体障害の該当する等級をその身体障害の障害等級とするのであるが、同時に身体の異なる部位あるいは異なる原因により複数の障害を受けた場合にもこの原則を貫くときは障害の序列上著しく不均衡となるので同条三項により等級の繰り上げを行うこととしているのである。したがつて、同一部位に同一の病理的原因による身体障害が複数ある場合に限り同条二項が適用されるものと解するのが相当であり、行政実務上も同様に運営されている(昭和二六年七月二四日、基災収第一七一一号)。蓋し、障害補償の目的は受傷者の労働能力喪失に対する補償にあるから、同一部位に同一病理的原因による複数の障害の等級は残存する全ての身体障害を考慮にいれたうえで最終的に最も重度の障害等級を認定すれば残存する地の身体障害に対する補償もまかなわれたと評価することができ、適正、公平な結果が得られるからである。

したがつて、被控訴人は、控訴人の前記残存障害は、同一病理原因たる視神経による視力障害及び視野障害という二個の障害が同時に残つたものであるから併合繰り上げをすることなく同規則一四条二項により障害等級第九級の障害が残存しているものとして本件処分を行つたものである。なお、通常神経が障害された場合、視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各障害が同時に眼球の機能的障害として現われるものであるから、この場合、視力、視野等の各観点からみれば、それぞれの評価すなわち複数の評価が可能であるが、もともと物体を視る能力の障害としては同一原因による一つの身体障害が存在しているのにすぎない。したがつて、前記基準も、施行規則一四条二項により右障害のうち重きに従つて評価認定すれば労働能力の喪失程度に対する正当な評価を行つたことになる旨規定しているのであつて、同規則一四条三項を適用して併合繰り上げがなされるものではない。

もつとも、昭和四二年二月、労働省に障害等級専門家会議が設置され、前記障害等級及び障害等級に関する認定基準について検討が行われ、昭和五〇年二月に検討結果の報告が労働大臣になされた。そこで労働省においては昭和五〇年九月一日障害等級表の一部を改正する省令を施行するとともに障害等級認定基準が改訂された。右改訂された障害等級認定基準によると、眼球の機能的障害(視力、視野、運動、調節各機能障害)のうち二つ以上の機能的障害が併存する場合には、前記のような重きに従つてではなく、施行規則一四条四項の準用規定により併合繰上げをするという取扱いに変更された。右基準の変更は眼球の機能的障害については、近時例えば網膜の中心部分の障害により、視力障害はあつても、視野障害その他の機能障害は生じない症例が見受けられるようになり、これを視力障害として等級決定することにより視神経障害による視力、視野、その他の機能的障害を同時に残す場合との不均衡について前記専門家会議において検討が行われ、その検討結果に基づき、右不均衡是正のために行われたものである。

しかしながら、福祉国家として国が行う社会補償制度は、年年、国家予算、医学の進歩、社会生活の変化等に従つて増進して行くのであつて、障害補償給付についての前記基準の改訂も、右同様、国家予算の拡充、医学の進歩、社会生活の複雑化に伴う職種の専門化及び職域の広がり等を検討した結果にほかならないのであつて、時代の要請に従い改善されたに過ぎず、改定前の取り扱いが不合理であつたというのではなく、その取扱いがより合理的に増進されたものというべきである。そして、右基準は被災労働者の全てに一律に適用されるものである以上取り扱いが改善される前後によりその不均衡が生ずることも行政として避けることができないのである。また行政解釈が有効であるためにはそれが明らかに不合理なものであつてはならないとされているが、このことは明らかに不合理であると認められない限り右行政解釈は有効として画一的、強行的に取扱われなければならないことを示すものである。したがつて、前記改定前の基準における眼球に同時に複数の機能的障害が残存した場合重きに従うという行政解釈は右基準改定後の併合繰り上げに準じて行うという行政解釈に比し被災労働者の保護に薄いとはいえ明らかに不合理な解釈であるとは到底いえないから、障害等級認定に際しての取り扱いが変つたことをもつて被控訴人の本件処分が違法であるということはできない。

三  よつて、被控訴人の治療及び障害等級についての認定は正当であり、本件処分に違法の点はなく、控訴人の本訴請求は理由がない。

第四証拠関係〈省略〉

第五争点に対する当裁判所の判断

一  控訴人の受けた診察及び治療の経過とその結果等

1  浜医院

控訴人は、前記のとおり、受傷後最初に浜医院で浜博医師の診察を受け、昭和四五年一〇月二三日から同年一二月二九日迄同医院に入院して治療を受けていたものであるが、〈証拠省略〉によると次のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

(一) 初診時、控訴人は、右眼の霧視及び眼瞼の腫脹を訴えていたが、浜医師の所見は右眼瞼の腫脹著明で眼底は乳頭がやや充血し、境界不鮮明であり、左眼には異常を認めないというものであり、浜医師はこれらの所見に基づき、控訴人の負傷を右眼の眼瞼フレグモーネ(蜂巣炎)及び球后視東炎と診断し、抗性物質を投薬するなどの治療を加えた。その後外傷性視神経炎、同網膜炎などによる眼底視神経の腫脹も認められたのでその治療も行つた。

(二) 入院中の視力及び視野の各検査結果は次のとおりである。

(1) 初診時の昭和四五年一〇月二三日、視力表を用いた自覚的検査により、右眼視力〇・五、右眼視力〇・八(両眼とも矯正不能)。

(2) 同月二七日、自覚的検査により右眼視力〇・四(左眼は打撲していないため平常通りということで測定していない。)、右眼視野二〇度ないし三〇度、左眼視野一〇度。

(3) 同年一一月一八日、視野両眼とも一〇度。

(4) 同年一二月二一日、自覚的検査により両眼とも視力は〇・三。

(5) 同月二八日、浜医師は、控訴人の日常行動を観察するなどの他覚的検査により両眼とも視力〇・八(矯正不能)に回復しているものと判断した。

(三) 右眼瞼部の腫脹は早期に軽快し、眼底部の所見も一二月中旬には殆んど正常となつたのにもかかわらず、この間控訴人は目が見えないなどと訴え続け、控訴人の自覚的検査による視力及び視野の検査結果は前記のとおり悪化を示したため、同医師は医学的に合理的な理由を見出せないとして詐病の疑いをもち、前記他覚検査の結果及び控訴人の日常の行動は視野狭さくの患者の動作とは認められないとして、同年一二月二九日治癒したものと診断した。なお同医師は万一にも診断の誤りがあれば後日に禍根を残すと考え、阪大病院への転医を勧めた。

2  阪大病院

控訴人は、前記のとおり、昭和四六年一月八日、阪大病院において診察を受けたものであるが、〈証拠省略〉によれば次のとおり認められ、右認定に反する〈証拠省略〉は前掲各証拠に対比してにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

同病院において、控訴人を診察した塚本尚医師は、控訴人の右眼朦禍の訴えに対し、両眼とも違視性乱視であると診断し、眼鏡をかけ視力表を読むという自覚的検査方法により、右眼視力〇・五(矯正一・〇)、左眼視力〇・四(矯正〇・八)との測定値を得たので、控訴人の負傷は、受診の日である昭和四六年一月八日には既に治癒しているものと診断した。なお、同医師は、同年二月二六日付で、「前眼部、眼底部ともに著変を認めない。労災保険法の障害等級に該当しない。」旨の証明書を発行している。

3  徳大病院

控訴人は、前記のとおり昭和四六年三月三〇日から同年一二月三一日迄、月二回程度徳大病院に通院し、治療を受けたが、〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨によると、次のとおり認められ、右認定に反する〈証拠省略〉は前掲各証拠に対比してにわかに措信し難く他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一) 控訴人は、右通院期間中、同病院の塩田医師らに対し、両眼の視力減退と視野狭さくの症状を訴え続けた。そして、同病院における検査ないし診断結果は次のとおりである。

(1) 初診時である昭和四六年三月三〇日、視力表を続むという自覚的検査により、両眼とも視力〇・一(矯正〇・一)。

(2) 同年四月一日、両眼とも視野は五度ないし一〇度で視野狭さく著明、ERG検査では両眼ともほぼ正常。

(3) 同年七月一七日、視力表による自覚的検査により、両眼とも視力〇・一(矯正〇・二)、視野は(2)に同じ。

(4) 同年一一月二一日前同様の自覚的検査により視力右眼〇・一、左眼〇・二。

(5) 同年一二月二日、前同様の自覚的検査により、両眼とも視力〇・一(矯正〇・一)。

なお、昭和四六年七月以降の徳大病院の控訴人に関する診療費請求内訳書六通(〈証拠省略〉)の各傷害経過記載欄には「視野狭さく著明、右眼視力〇・一(〇・二×+二・〇一)、左眼視力〇・一(〇・二×+二・〇一)、投薬にて経過観察中。」(療養期間七月一八日から同月三一日迄の分)、「右眼視力〇・一(〇・二×+二・五D)、左眼視力〇・一(〇・二×二・〇D)、視野狭さく著明、経過は目下平行状態。」(同八月一日から同月三一日迄の分)、「視力障害、視野狭さく等の症状は目下平行状態である。」(同九月一日から同月三〇日迄の分)、「視力障害、視野狭さくの症状は平行状態で悪い。」(同一〇月一日から同月三一日迄の分)、「視力障害、視野狭さく等の症状は目下平行状態である。」(同一一月一日から同月三〇日迄及び一二月一日から同月三一日迄の分)と各記載されている。

(二) この間、控訴人は、症状が好転しないので、障害補償給付を請求する目的で、塩田医師に対し、診断書及び身体障害状況診断書の作成交付を求め、同医師は昭和四六年七月一七日、「びまん性脳性萎縮症の疑いがある」旨の診断書及び「ビタミン剤を投与し、経過観察中である。控訴人の視力障害(両眼とも〇・一、矯正〇・二)及び視野狭さく(両眼とも五度ないし一〇度)はそれぞれ障害等級第九級第一号及び第三号に相当する」旨の身体障害状況診断書を作成し(但し、いずれも治癒年月日欄は記載されていない。)、これらを控訴人に交付したが、その際、同医師は、控訴人に、今暫く通院して経過を見るように助言したので、控訴人は、右助言にしたがい暫く障害補償給付の請求をさしひかえ通院を続けることとした(なお、びまん性脳性萎縮症は、頭部に打撲を受けたこと等が原因となり、脳室の拡大によりその周囲の視神経が圧迫され、萎縮するため、眼部の器質的障害が認められなくとも、高度の視力障害等の機能障害をひきおこすものであるが、現在の医学水準をもつてしては、未だその治療方法が確立されていない。)。

同医師は、控訴人が、昭和四六年七月一七日頃以降も視力減退、視野狭さくの症状を訴え続けるため、びまん性脳性萎縮性の疑いがあると考えたのであるが、その症状は長期に亘つて平行状態を維持し、治療効果が期待できないことから、昭和四六年一二月、池田労働基準監督署労働事務官石原義輝の問合わせに対し、同年一二月三一日をもつて診療を打切る旨回答したので、被控訴人は、同医師の右見解を参考にして、同日限り療養補償給付及び休業補償給付の支給を打切つた。そこで、控訴人は、後遺障害につき障害補償給付の請求をするため、昭和四七年二月一四日、塩田医師に対し、さきに同医師から交付を受けていた前記昭和四六年七月一七日付、診断書及び身体障害状況診断書を持参して、新らたに診断書及び身体障害状況診断書の作成交付を求めたのであるが、同医師は前記のとおり控訴人の症状が昭和四六年七月一七日付の診断書及び身体障害状況診断書の記載と同一であると判断し、且つ、右各診断書の治癒年月日欄に昭和四六年一二月三一日治癒と記載せられていることを了知しながら、右各診断書の作成日付を昭和四七年二月一四日付に訂正しただけで、これらを控訴人に交付した。そこで、控訴人は昭和四七年二月二三日、被控訴人に対し、右診断書及び身体障害状況診断書を添付した障害補償給付請求書を提出して障害補償給付の請求をなした。

(三) 控訴人は、昭和四七年一月以降本件負傷について、何ら医師の治療を受けていないところ、

(1) 本件処分後の昭和四七年七月一四日徳大病院における視力表を用いた自覚的検査の結果、控訴人の視力が両眼とも〇・〇一(矯正不能)であり、右検査を担当した塩田医師は、右検査結果は一〇〇%信用しかねるとし、仮りにこれが正しいものであるとすればびまん性脳性萎縮症によるものと診断した。

(2) 控訴人は、さらに昭和五〇年六月二三日、三〇日の両日同病院で診察を受け、同月三〇日に同病院三井幸彦教授らが控訴人の視力について他覚的検査を行つたところ、控訴人が全盲に近いと訴えている症状は詐盲にほかならず、その視力は両眼とも推濁値がおおよそ〇・五ないし〇・六程度であつて、この程度の視力障害はびまん性脳性萎縮性によるものではないと診断し、同病院医師産賀学は、同日、控訴人は両眼の視力が眼前手動と訴えているが、信用できないとして、病名は記載できない旨記載した診断書を控訴人に交付した。

二  治癒及び残存障害について

労災保険法一二条、労働基準法七七条によれば、業務上の傷病が治癒したときに残存障害が存する場合には、障害保障が支給される旨規定されているが、ここに「治癒」とは、たとえ慢性症状が持続していても、症状そのものは固定している状態、すなわち、傷病に対する治療効果が期待できなくなり、且つ、治療行為を行わなくてもそれ以上症状が悪化することはない状態をいうものと解すべきである。

ところで、前記認定したところによると、控訴人の負傷は、前眼部、眼底などの器質的障害については、浜医院における治療によりほぼ完治したものと認められ、視力などの機能的障害についても、浜医師は、昭和四五年一二月二九日に、阪大病院の塚本医師は、昭和四六年一月八日に、それぞれ機能を回復し、治癒しているものと診断しているのであるが、右両医師の機能的障害についての見解は、本件処分に最も近い時期に九ケ月間という比較的長期間にわたつて継続的に経過観察をした徳大病院における診断結果よりも高い妥当性を持つものとは評価できないから、措信することができない。そこで、徳大病院における診断結果に基づいて機能的障害の有無程度について検討するに、前記認定したところによれば、控訴人の昭和四六年七月一七日当時の同病院における自覚的検査による検査結果は、視力が両眼とも〇・一(矯正〇・二)、視野狭さくは、両眼ともほぼ五度ないし一〇度でそれ以後おおむね平行状態を続け、機能的障害は残存し完治したわけではないが、その症状は、昭和四六年七月一七日以後同年一二月三一日に至る迄変動はないと診断され、その治療効果も見出せなかつたことに照らすと、控訴人の症状は遅くとも昭和四六年一二月三一日をもつて「治癒」し、その残存障害は、同年七月一七日に行われた検査結果のとおり視力が両眼とも〇・一(矯正〇・二)視野狭さくが両眼ともほぼ五度ないし一〇度であつて右残存障害は、びまん性脳性萎縮症によるものではなく、控訴人には右の程度をこえてさらに重度の障害や、右視力障害及び視野障害のほかに、びまん性脳性萎縮症に基づく神経症状が残存するものではないと認めるのが相当である。

もつとも、控訴人の昭和四六年一二月二日の視力検査では矯正視力が〇・一であつたことは前記認定のとおりである。しかし、右検査結果は視力表を用いる自覚的検査方法による検査結果であるところ、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨によれば、右のような方法による検査結果は、被検者の自覚についての正しい応答があることを前提としてその正確性が担保されるものであるから、診察にあたつた医師に裁量の余地があることは当然であつて、前記認定した診察経過に照らすと、塩田医師は昭和四七年二月一四日、同日迄の検査結果及び治療の経過を綜合的に考察して、昭和四六年一二月三一日当時の視力が〇・一(矯正〇・二)と判断していることが窺われるから、右同年一二月二日の検査結果をもつて、右認定を左右するに足るものではないといわなければならない。当審証人塩田洋は、控訴人は、昭和四六年一二月三一日当時未だ治癒したものとはいえない旨証言しているけれども、塩田医師の右証言部分は、びまん性脳性萎縮症の疑い及び前記昭和四七年七月一四日の視力〇・〇一の検査結果を前提とした見解と推認されるところ、その前提となる事実が前記のとおりいづれも否定せられるところであり、また、前記認定した同医師の池田労働基準監督署労働事務官石原義輝に対する回答の内容及び昭和四七年二月一四日付診断書及び身体障害状況診断書作成の経緯に照らし、にわかに措信し難い。なお、〈証拠省略〉中控訴人に頭痛などの著しい神経症状が残存している旨の供述部分も〈証拠省略〉に対比してとうてい措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

したがつて、被控訴人が本件処分の前提として認定した控訴人の負傷の治癒の時期及び治癒時の残存障害の状況、程度の点については違法はないというべきである。

三  控訴人の本件障害補償給付請求について

控訴人は、控訴人の本件障害補償給付請求は控訴人の真意に基づいてなしたものではないから本件処分は違法である旨主張する。しかし、前記認定した控訴人の診断、治療ならびに本件障害補償給付請求の経緯に照らすと、控訴人のなした本件障害補償給付請求はその真意に基づくものと認められるのであつて、右認定に反する〈証拠省略〉は措信し得ず、他に右認定を覆えすに足る証拠はないから控訴人の右主張は理由がない。

四  残存障害の障害等級の認定について

控訴人の前記治癒時の機能的障害の状況、程度が矯正視力両眼とも〇・二、視野狭さく両眼ともほぼ五度ないし一〇度であり、控訴人に右の程度をこえてさらに重度の身体障害が残存し、または右の障害とは別個の身体障害が残存するものでないことは前記認定のとおりである。

そこで、以下に被控訴人のなした控訴人の残存障害が障害等級第九級に相当するとの認定の適法性について検討する。

被災労働者の負傷が治癒したときに身体に障害が存する場合労働者に支給される障害補償給付については、労災保険法一五条は、「障害補償給付は労働省令で定める障害等級に応じ、障害補償年金又は障害補償一時金とし、その額はそれぞれ別表第一又は第二に規定する額とする」と規定し、これをうけた施行規則一四条一項は、「障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は、別表に定めるところによる」と定め、同別表は、障害補償給付を支給すべき身体障害を個別的具体的に掲げ、これらの身体障害を第一級から第一四級迄順次重きに従つて格付けしているのであるが、右別表に掲げる身体障害が二以上ある場合の障害等級の定め方については、同規則一四条二項は「別表に掲げる身体障害が二以上ある場合には重い方の身体障害の該当する障害等級による」と定めながら、三項において、「左の各号に掲げる場合には前二項の規定による障害等級をそれぞれ当該各号に掲げる等級だけ繰り上げた障害等級による。一、第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるとき一級、二、第八級以上に該当する身体障害が二以上あるとき二級、三、第五級以上に該当する身体障害が二以上あるとき三級」と定めている。

そして〈証拠省略〉並びに弁論の全趣旨を綜合すると、(一)従来労働省労働基準局では、眼球の機能的障害を視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害に区分し、同一眼球に二以上の機能的障害が同時に残つた場合(例えば調節機能障害と視力障害が残つたとか眼球震盪症によつて眼球の運動障害と視力障害が残つたときとか視野障害と視力障害が残つた場合等)には併合繰り上げを行なうことなく、施行規則一四条二項により重い方の身体障害によつて障害等級を定めなければならないとの公定解釈(旧基準という)のもとに障害等級の認定が行なわれてきたこと(二)施行規則別表記載の視力は原則として矯正視力をいい(同規則別表備考一)、視野狭さくは通常人の視野六〇度ないし九〇度の六〇%以下になつた場合をいうものと解せられるから、控訴人の前記視力障害は障害等級第九級第一号に定める「両眼の視力が〇・六以下になつたもの」に該当し、前記視野障害は障害等級第九級第三号に該当するものであること(三)被控訴人は前記旧基準に従い、控訴人の、視力障害は障害等級第九級第一号に、視野障害は同第九級第三号にそれぞれ該当するが、そのうち最も障害等級の高い障害等級第九級に相当するものと認定して本件処分をなしたことが認められる。

労災保険法が被災労働者の残存障害に対し、障害補償給付をなすのは、当該労働者の生計維持を図るためその誤つた消極的な財産上の損害を填補することを目的とするものであつて、同法に基づく障害補償給付の支給についての処分は被災労働者に対し障害補償給付の支給を受ける権利を設定する性質を有するものであるから、右補償給付について行われる障害等級認定のための法令は労働者の災害補償を十分ならしめるように解釈運用すべきである。

ところで、被災労働者に複数の身体障害が残つた場合について施行規則一四条二項及び三項は、前記のとおり取り扱いを異にする二個の規定を併列的に規定しているところであるが、同条二項が別表に掲げる二以上の身体障害が併存する場合には重い方の身体障害の該当する障害等級によると定めながら、同条三項において、第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるときは繰り上げた障害等級によると定めたのは、複数の身体障害が第一三級以上に達するにもかかわらず、同条二項が適用されて重い方の障害等級によることにすると、多くの場合補償として不十分であることを理由とするものと考えられる。したがつて、右の趣旨からすれば、同条三項は、別表に掲げた第一三級以上に該当する二以上の身体障害が併存する場合に、重い方の障害等級による補償によつて当然他方の障害の補償も十分なされているものとみなし得る等の特段の合理的理由がある場合を除き、原則として同項各号のとおり繰り上げた等級をもつて障害等級とすることを明らかにしたものであり、その余の場合に同条二項が適用されるものと解するのが相当である。

被控訴人は、同一部位に同一の病理的原因による身体障害が複数ある場合には残存する全ての身体障害を考慮に入れた上で最も重い障害等級を認定すれば残存する他の身体障害に対する補償もまかなわれたと評価することでき、適正、公平な結果が得られるから、施行規則一四条二項を適用して重い方の等級をその身体障

害の障害等級とすべきである旨主張する。或程度一部位に同一の病理的原因による身体障害が複数ある場合に、その最も重い障害等級による補償をすれば当然その余の障害の補償をも十分になされていると評価し得る場合のあることは理解し得ないでもないが、被控訴人が主張するように同一部位に同一の病理的原因による身体障害が複数ある場合にはすべて同条二項を適用すべきであるとの見解には直ちに賛同することができない。

そこでこれを本件につき見るに、控訴人の身体障害は視力障害が第九級第一号、視野障害が第九級第三号にそれぞれ該当することは前記認定のとおりであり、被控訴人は、同一眼球の機能的障害は通常その二以上が同時に現われるものであり、また、右機能的障害はもともと物体を見る能力の障害としては一個の身体障害が存在しているのにすぎない旨主張するけれども、同一眼球の機能的障害である視力障害、運動障害、調節機能障害、視野障害は、視神経の障害に起因する場合には複数の障害として現われるのが通常であるが、網膜の中心部分の障害に起因する場合には視力障害はあつても必ずしもそれ以外の機能的障害である運動障害、調節機能障害、視野障害が現われるとは限らないことは被控訴人の自認するところであり、右各機能障害は必ずしも同一又は相関連して生ずる障害とみることはできないし、また、視力、眼球の運動や調節、視野は、日常の労働においてはそれぞれが独立して重要な機能を営んでいるものというべきであるから、眼球の一つの機能的障害について、補償をすれば当然その余の機能的障害についても補償がなされていると評価し得べき特段の合理的理由があるということはできない。

したがつて、別表に掲げる第一三級以上に該当する身体障害が二以上併存するにもかかわらず前記の如き特段の合理的理由がないのに施行規則一四条三項に定めた併合繰り上げを行わない同条二項によりその重い方の障害等級を認定した被控訴人の本件処分は違法である。

なお、〈証拠省略〉によれば、労働省労働基準局は昭和五〇年九月三〇日、新たに障害等級認定基準(新基準という)を定め、右基準は同月一日に支給事由の生じた障害補償、障害補償給付及び障害給付に係る障害等級の認定等に関して実施されることになつた(労働省労働基準局長昭和五〇年九月三〇日基発第五六号)が、右新基準によると、同一眼球に系列を異にする二以上の障害が存する場合(例えば視野障害と視力障害が存する場合等)は併合の方法を用いて準用等級を定めることに改められたことが認められ、右新基準が眼球の機能的障害が二以上残存する場合の取り扱いについて施行規則一四条三項を準用するとした点は前記説示したところと異なるけれどもその結論においては前記説示したとおり障害等級を繰り上げることにしたものであつて、このように旧基準の取り扱いを改めたのは被災労働者の福祉を増進せしめる目的ばかりでなく、旧基準にみられる前記のような著しく不合理な取り扱いを是正するためであつたものと考えられる。

してみれば、控訴人の両眼の機能的障害のうち視力障害を第九級第一号、視野障害を第九級第三号と認定しながら、施行規則一四条三項により等級の繰り上げをなして第八級と認定せず、同条二項を適用して重い身体障害の第九級に該当するとして同等級による労働者災害補償保険給付の決定をしたことは結局法令の解釈を誤り、違法な行政処分をしたものというべきであるから、本件行政処分は取消を免れない。

第六結論

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は不当であるからこれを取り消し、控訴人の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋山正雄 下村幸雄 福家寛)

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